自然界及び天然物の過冷却促進物質 (抗氷核活性物質)    

表1.過冷却促進物質の検索
図.1 不凍タンパク質と過冷却促進物質の用途

過冷却促進物質の検索

これまでに過冷却促進物質(抗氷核活性物質)についての研究はいくらか報告があります。例えば、酵素修飾したゼラチンEMG-12の他に、我々の研究室では、香辛料のクローブの精油であるオイゲノールやヒノキの成分であるヒノキチオールなどが霜害を引き起こす氷核活性細菌の氷核物質に対して阻害活性を示します。これら2つの化合物の共通性は芳香族化合物であり、お茶畑の霜害防除にタイヤを燃やしたり、木酢液をまいたりしたのは理にかなっています。

しかしながら、これらの化合物の生産性やコスト面などから、過冷却促進物質の実用化にはいたっていません。そこで、我々の研究室で、食品加工廃棄物よりヨウ化銀を核としてアッセイ系を用いて、抗氷核活性物質の検索を行いました。その結果、表1に示したように複数の食品加工廃棄物の熱水抽出物に活性を確認しています。そのうち、実際に粒あんとして食されている部分であるこし餡粕エキスおよび食品加工廃棄物で廃棄量が多いコーヒー粕エキスの成分の研究を進めています(表1.過冷却促進物質の検索)。

このうち、餡粕エキスの主成分はペプチド系の化合物であり、現在同定を進めています(特許第5322602号)。また、コーヒー粕エキスの主成分はポリフェノールなどであり、既に特許も出願しています(特許6423998)

過冷却促進物質の応用性は広く、その可能性はヨウ化銀などの無機物の核形成も阻害するからです。不凍タンパク質および不凍多糖とともに併用すれば、図1に示したような用途の可能性があり、順次研究室でもその用途に関する基礎研究も進めています。その基礎研究で、医療用のために同活性を有する物質も発見しています。

植物由来の氷再結晶化抑制物質と過冷却促進物質

氷点下の冬の野外で耐えて生存できる植物があります。この生存には'植物体内の氷ができる場所'が影響します。つまり細胞内に氷結晶ができてしまうと細胞は死んでしまう。しかしながら、細胞内には様々な生体成分(糖やアミノ酸など)が溶解しており、それによって浸透圧が高くなり、凝固点降下によって、すぐに凍結しないようになっています。
一方、細胞外では、氷結晶の核となる生体成分が溶解しており、それによって、氷点下になり、瞬時に細胞外に氷結晶が形成されます。一旦できた氷は、氷結晶の伝播によって、多くの結晶が形成され、氷結晶も成長していきます。この氷結晶の成長を抑制する機能の一つとして、いくつかの植物は細胞外に氷再結晶化抑制物質を凍結前に生産しています。この生産によって氷結晶を微小化し、巨大化する速度を抑制して、細胞外からの損傷を軽減させています。このメカニズムを持っていると予測されている(不凍タンパク質と同様の機能の存在が確認されている)植物は以下に示しています。

アブラナ科ガーリックマスタード/フユガラシ/菜の花/芽キャベツ・キャベツ
イネ科カラス麦/冬ライ麦/冬小麦/四条大麦/ライ小麦/ホソムギ/スズメノカタビラ
ナガハグサ/コスズメノチャヒキ
セリ科ニンジン
ケシ科コマクサ属
キク科シオン属/セイヨウタンポポ
トウダイグサ科ハツユキソウ
ユリ科ヤブカンゾウ
ヤナギ科コントンウッド
オオバコ科ハラオオバコ/オニオオバコ
ナス科ズルカマラ/ジャガイモ
ブナ科ホワイトオーク
ナデシコ科ハコベ
キョウチクトウ科ヒメツルニチニチソウ
スミレ科スミレ
モクセイ科レンギョウ

北海道の極寒でも生息している針葉樹(ブナ、カツラ、カラマツなど)の幹にある木部柔細胞があります。木部柔細胞は、基本的に木部における唯一の生細胞であり、その細胞壁はときおり肥厚しており、機能は糖や樹脂、結晶などの貯蔵であります。この細胞壁などのおかげで、すぐそばで氷ができても、細胞内に水は移動しません。さらに、木部柔細胞内には、過冷却促進する機能を有するフラボノール骨格に糖が結合した多種のポリフェノールであるフラボノール配糖体や多種の加水分解型・縮合型タンニンが蓄積しています。

これらの多種の蓄積物質が有する過冷却活性によって、木部柔細胞は-40℃まで凍結しない能力を獲得しています。

このように植物は、氷結晶を抑制する天然物質を蓄積することによって、凍結から身を守り、生存しています。この氷結晶制御物質を有する天然物として、フラボノールやカテキンなどの構造以外の物質も同様の機能を有することも期待でき、本社の製品は、同様の機能を持った天然物質をコーヒー粕のような未利用資源(食品加工残渣)から発見し、その機能性の評価を進めています。

フラボノール
フラボノールの基本骨格
カテキン

(a)加水分解型カテキン(例:エピガロカテキン)
(b)縮合型カテキン

参考文献
1)urrutia M.E., Duman J.G., Kbight, C.A. 1002. Plant thermal hysteresis proteins. Biochim. Biophys. Acta. 1121:199-206.
2)Kasuga J., Fkushi Y., Kuwabara C., Wang D., Nishioka A., Fujikawa E., Arakawa K., Fujikawa S. 2010. Analysis of supercooling-facilitating (anti-ice nucleation) activity of flavonol glycosides. Cryobiology 60:240-243.
3)Kuwabara C., Wang D., Endoh K., Fukushi Y., Arakawa K., Fujikawa S. 2013. Analysis of supercooling activity of tannin-related polyphenol.
4)Kawahara H., Tagawa E., Watanabe C., Hamada J., Hamada S. 2017. Characterization of anti-ice nucleation activity of the extract from coffee refused.